2005年 08月 02日
監査人って不正をみつけてくれるんですよね? |
最近ぼーと遊んでるのをみこされて、LinLin9146氏から通報いただきました(笑)。日本は大変なことになってきましたよ。と。。。
ということで、お題をいただいたのでたまには仕事ネタ。
Source:日経Net
粉飾決算など不正、会計士に通報義務付け・金融庁検討
金融庁は監査法人や公認会計士に対し、会計監査の過程で粉飾決算などにつながる不正を発見したり、不正の疑いを持った際に、証券取引等監視委員会などへの報告を義務付ける方向で検討に入る。悪質な場合は検察などへの通報を求める。監視委や捜査当局が速やかに実態の解明に着手できるようにし、不正の早期発見につなげる。2007年度の実現を目指す。
監査法人や会計士が企業の会計監査に携わる際の手順などを定めた「監査基準」の見直しに着手する。企業会計審議会(金融庁長官の諮問機関)で来年初めにも議論を開始し、必要があれば公認会計士法も改正する。対象となる監査は上場企業のほか、資本金5億円以上の株式会社など非上場も含めて合計約1万社。 8/2/2005 (07:00)
これは、大変な話です。といって、私にも対岸の火事ではないわけですが。
これだけでは、よくわからないのが、「どのレベルの不正」であれば報告対象になるのか、という点。投資家の意思決定をあやまらせる「金額」と「質」かどうか、というのが結局監査における修正してください、修正しないなら意見だしませんよというベンチマークになるわけなんですけれども、そこまでの規模にならなくとも後で露見した場合社会的に道義を問われるというレベルの不正って結構あるはずなのですよね。大手都市銀行で窓口のおねえさんが4000万円ほど流用したのが公になったら新聞沙汰でしょうが、それが、総資産規模が100兆超えるメガバンクの財務諸表にどのくらい影響するか?といえばイメージのわくところです。まあ、そこのところは後で詳しいことが発表されることでしょう。
そうして、違和感があるのが、「不正の早期発見」をするよりも、まずは「不正のおきにくい会社の組織づくり=適切なガバナンス」を構築させるほうが先なんですけれど、世間の風当たりそのままに監査法人が発見責任を負いつつある点。そして、なぜ「お上」に報告義務があるのだという点。まずは、それは本来「これこれこういうレベルの不正があったらこういうかたちでまずは投資家に報告義務があります、同じ内容をお上にも報告します」っていう話だと思うんですけれど。
現在の制度がどうなっているかというのは、 監査実施基準 第三一般基準 4にあきらかです。「監査人は、職業的専門家としての懐疑心をもって、不正及び誤謬により財務諸表に重要な虚偽の表示がもたらされる可能性に関して評価を行い、その結果を監査計画に反映し、これに基づき監査を実施しなければならない。」とあります
だから、今でも不正は「重要な虚偽」に通じるものであれば発見されなんらかの手がうたれているはずです。そのあたりが、カネボウ&中央青山の話でうやむやだったことが判明したためにいまこういう話になっているわけですね。
ただし、これに関しては監査基準委員会報告書10号「不正及び誤謬」に続きがあり、「監査の限界」と題し、「財務諸表の作成には経営者による見積もりや判断が多く含まれていること、監査が原則として試査によること(中略)から、監査人が、たとえ適切に監査計画を策定して適切に監査を実施したとしても、不正及び誤謬によるすべての重要な虚偽の表示を発見できないことがあるという限界がある」とされています。そのために、経営者とのディスカッションや、「重要な虚偽の表示の兆候とその場合の監査手続」などが示唆され、そういった環境下でもできる最大限のことをしましょう。。。という若干歯切れのわるい意見報告書です。
そんなの骨抜きじゃん?とお思いでしょうか。でも、経営者が本気になって不正を隠蔽に掛かった場合、監査人がそれを看破することはやはり私は無理だとおもうんですよ。だから、経営者の暴走を食い止める会社のなかの組織ができていること、が先で、その仕組みをテストすることのほうが現実的だと思うのです。
二重責任の原則=会社が財務諸表をつくる責任をもつ、監査人はそれを批判的に検討し適正であることに対し意見を表明する責任をもつ。というのは、監査の大前提ですが、昨今の内部統制そのものをさかのぼる監査という新たなスタンダードにおいては、会社は適切な内部統制を構築しそれを維持する責任を持つ、監査人はそれを批判的に検討し適正であることに対し意見を表明する責任をもつ、という形で言い換えられます(昔から、内部統制を構築する義務は会社にあるわけですけれど)。不正の場合は、不正をしないような枠組みを維持するのが会社のマネジメントの役割、あったものをもし「全部」発見するのが監査人の仕事。。。ということになってしまったら、もう、監査にかかるコストって莫大なものにならざるを得ません。
米国においてどうなっているか、と申せば、基本的に一緒ですね。日本の監査基準委員会報告10号は平成14年度の改訂でSAS99(2002年度改訂)にほぼすりあったと思われます。”An audit should be planned and performed to obtain reasonable assurance about whether the financial statements are free of material misstatement, whether caused by errors, fraud, or certaine illegal acts”
ただし、財務省への報告責任というものはありません。米国企業不祥事はいまのところ、
「Sarbanes-Oxley Act(サーベンス・オクスリー法)」(企業改革法、以下SOX法、2002年7月末に成立)による財務報告に係る内部統制の構築と報告が義務付けられたこと、そして、公開会社の監査を行う会計事務所の監査業務の品質を監視する機関として、公開会社会計監視委員会(PCAOB:Public Company Accounting Oversight Board)を新たに設置されたこと、という形で対応がすすみ、様子見の段階です。
PCAOBは、米国政府機関ではなく非営利のD.C.会社(District of Columbia Nonprofit Corporation Act)であり、運営財源は主に、米国公開会社によって賄われています。
PCAOBは(1) 公開会社の監査を行う会計事務所の登録(当該会計事務所を「登録監査人」という) (2) 監査の品質管理、倫理、独立性その他監査報告書の作成に関する基準の設定
(3) 登録会計人の検査 (4) 登録会計人およびその関係者に対する調査、懲戒、制裁 などの権限と任務をおっており、企業不祥事が発生してそれに対する監査人の対応ができていなかったら、登録抹消がありえる。。という理解でしょうか。
日本でもSOX404に準じた基準が制定される方向で動いていますが、それより先に不正の通報義務付けが始まってしまいそう。大手監査法人のパートナー氏たちの心労も今後しばらく続きそうな模様です。
まあ、現在進行形でこの職についている人間がいうのもなんですが、どんなに策を講じても監査には限界があります。で、以前からこっそり思ってたんですが、監査で最高のパフォーマンスを出そうとしたら、国家権力をもってやるしかないですよ。大手監査法人はすべて解体、監査人はすべて「公開企業監視局」とかいうところに所属する準国家公務員になる。この場合、上場企業は売り上げ規模資本規模などに応じて一定の監査費用を毎年支払い、それが監査人のお給料に。監査人はクライアントとの良好な関係だのほかにちょっとビジネスがあればとかいう淡い期待はすべて消し去って、マル査並に厳しい対応でばりばりと監査を遂行。がんがん不適正意見を表明し、恐怖政治。金融庁の銀行検査くらいの勢いで。
これは、自由競争市場に対する多大な介入になりますが・・・上場したい企業が減ってしまって日本経済が落ち目になることも間違いない。でも、そこまでやれば粉飾って聞かなくなるのかもしれないですね。
期待ギャップというのが監査論で出てくる有名な言葉としてありまして、これは「投資家は(たとえば)財務諸表は1円の単位まで正しいと信じて(=期待)しているのだけれど、監査人は(たとえば)重要性の基準というものを用いて監査をしているので1万円まちがってて、投資家がそれに対して憤慨する(=ギャップ)というような話です。この話は、isologの磯崎さんのちょっと前のエントリー「粉飾決算とカネボウ」がわかりやすいかと思いますが、昨今の議論は、監査が実際問題があった場合、もあるし、期待ギャップの表れ、でもあると思っています。
本気で期待ギャップは解決していかないといけないですね。
検察に報告するならするで、それはまず、こういう重要な虚偽にかかわる不正は、投資家に報告すべき内容である、という形にもっていってほしいもの。そうじゃないとだれの方をみて監査しているの?という話になりますから。
ささやかに今できることからはじめる「期待ギャップ解消」として、日本でも監査報酬の開示っていうのはやってもいいと思います。
だって投資家が会社をとおして「財務諸表の信頼性」のために払っているお金ですからね。アメリカのほとんどの上場企業はSECのFilingでProxy(株主総会議事録)を公開してますが、そのなかで開示しております。
まあ、それが「こんなに払って不正を見つけられないなんてつかえない連中」となるか、「これだけしか払ってなくてこの財務諸表大丈夫なのか」のどっちに転ぶか。。。て考えたら、前者なんでしょうけれどね。とほほ。
でも、年間3千万円くらいで一部上場企業の監査報告書を出せっていうのはどう考えてもふつうじゃない、というコスト感覚は持っていただけないと、値上げ交渉の下手な日本の監査法人は本当に国有化するしか立ち行かなくなるのではないでしょうか。。。
ということで、お題をいただいたのでたまには仕事ネタ。
Source:日経Net
粉飾決算など不正、会計士に通報義務付け・金融庁検討
金融庁は監査法人や公認会計士に対し、会計監査の過程で粉飾決算などにつながる不正を発見したり、不正の疑いを持った際に、証券取引等監視委員会などへの報告を義務付ける方向で検討に入る。悪質な場合は検察などへの通報を求める。監視委や捜査当局が速やかに実態の解明に着手できるようにし、不正の早期発見につなげる。2007年度の実現を目指す。
監査法人や会計士が企業の会計監査に携わる際の手順などを定めた「監査基準」の見直しに着手する。企業会計審議会(金融庁長官の諮問機関)で来年初めにも議論を開始し、必要があれば公認会計士法も改正する。対象となる監査は上場企業のほか、資本金5億円以上の株式会社など非上場も含めて合計約1万社。 8/2/2005 (07:00)
これは、大変な話です。といって、私にも対岸の火事ではないわけですが。
これだけでは、よくわからないのが、「どのレベルの不正」であれば報告対象になるのか、という点。投資家の意思決定をあやまらせる「金額」と「質」かどうか、というのが結局監査における修正してください、修正しないなら意見だしませんよというベンチマークになるわけなんですけれども、そこまでの規模にならなくとも後で露見した場合社会的に道義を問われるというレベルの不正って結構あるはずなのですよね。大手都市銀行で窓口のおねえさんが4000万円ほど流用したのが公になったら新聞沙汰でしょうが、それが、総資産規模が100兆超えるメガバンクの財務諸表にどのくらい影響するか?といえばイメージのわくところです。まあ、そこのところは後で詳しいことが発表されることでしょう。
そうして、違和感があるのが、「不正の早期発見」をするよりも、まずは「不正のおきにくい会社の組織づくり=適切なガバナンス」を構築させるほうが先なんですけれど、世間の風当たりそのままに監査法人が発見責任を負いつつある点。そして、なぜ「お上」に報告義務があるのだという点。まずは、それは本来「これこれこういうレベルの不正があったらこういうかたちでまずは投資家に報告義務があります、同じ内容をお上にも報告します」っていう話だと思うんですけれど。
現在の制度がどうなっているかというのは、 監査実施基準 第三一般基準 4にあきらかです。「監査人は、職業的専門家としての懐疑心をもって、不正及び誤謬により財務諸表に重要な虚偽の表示がもたらされる可能性に関して評価を行い、その結果を監査計画に反映し、これに基づき監査を実施しなければならない。」とあります
だから、今でも不正は「重要な虚偽」に通じるものであれば発見されなんらかの手がうたれているはずです。そのあたりが、カネボウ&中央青山の話でうやむやだったことが判明したためにいまこういう話になっているわけですね。
ただし、これに関しては監査基準委員会報告書10号「不正及び誤謬」に続きがあり、「監査の限界」と題し、「財務諸表の作成には経営者による見積もりや判断が多く含まれていること、監査が原則として試査によること(中略)から、監査人が、たとえ適切に監査計画を策定して適切に監査を実施したとしても、不正及び誤謬によるすべての重要な虚偽の表示を発見できないことがあるという限界がある」とされています。そのために、経営者とのディスカッションや、「重要な虚偽の表示の兆候とその場合の監査手続」などが示唆され、そういった環境下でもできる最大限のことをしましょう。。。という若干歯切れのわるい意見報告書です。
そんなの骨抜きじゃん?とお思いでしょうか。でも、経営者が本気になって不正を隠蔽に掛かった場合、監査人がそれを看破することはやはり私は無理だとおもうんですよ。だから、経営者の暴走を食い止める会社のなかの組織ができていること、が先で、その仕組みをテストすることのほうが現実的だと思うのです。
二重責任の原則=会社が財務諸表をつくる責任をもつ、監査人はそれを批判的に検討し適正であることに対し意見を表明する責任をもつ。というのは、監査の大前提ですが、昨今の内部統制そのものをさかのぼる監査という新たなスタンダードにおいては、会社は適切な内部統制を構築しそれを維持する責任を持つ、監査人はそれを批判的に検討し適正であることに対し意見を表明する責任をもつ、という形で言い換えられます(昔から、内部統制を構築する義務は会社にあるわけですけれど)。不正の場合は、不正をしないような枠組みを維持するのが会社のマネジメントの役割、あったものをもし「全部」発見するのが監査人の仕事。。。ということになってしまったら、もう、監査にかかるコストって莫大なものにならざるを得ません。
米国においてどうなっているか、と申せば、基本的に一緒ですね。日本の監査基準委員会報告10号は平成14年度の改訂でSAS99(2002年度改訂)にほぼすりあったと思われます。”An audit should be planned and performed to obtain reasonable assurance about whether the financial statements are free of material misstatement, whether caused by errors, fraud, or certaine illegal acts”
ただし、財務省への報告責任というものはありません。米国企業不祥事はいまのところ、
「Sarbanes-Oxley Act(サーベンス・オクスリー法)」(企業改革法、以下SOX法、2002年7月末に成立)による財務報告に係る内部統制の構築と報告が義務付けられたこと、そして、公開会社の監査を行う会計事務所の監査業務の品質を監視する機関として、公開会社会計監視委員会(PCAOB:Public Company Accounting Oversight Board)を新たに設置されたこと、という形で対応がすすみ、様子見の段階です。
PCAOBは、米国政府機関ではなく非営利のD.C.会社(District of Columbia Nonprofit Corporation Act)であり、運営財源は主に、米国公開会社によって賄われています。
PCAOBは(1) 公開会社の監査を行う会計事務所の登録(当該会計事務所を「登録監査人」という) (2) 監査の品質管理、倫理、独立性その他監査報告書の作成に関する基準の設定
(3) 登録会計人の検査 (4) 登録会計人およびその関係者に対する調査、懲戒、制裁 などの権限と任務をおっており、企業不祥事が発生してそれに対する監査人の対応ができていなかったら、登録抹消がありえる。。という理解でしょうか。
日本でもSOX404に準じた基準が制定される方向で動いていますが、それより先に不正の通報義務付けが始まってしまいそう。大手監査法人のパートナー氏たちの心労も今後しばらく続きそうな模様です。
まあ、現在進行形でこの職についている人間がいうのもなんですが、どんなに策を講じても監査には限界があります。で、以前からこっそり思ってたんですが、監査で最高のパフォーマンスを出そうとしたら、国家権力をもってやるしかないですよ。大手監査法人はすべて解体、監査人はすべて「公開企業監視局」とかいうところに所属する準国家公務員になる。この場合、上場企業は売り上げ規模資本規模などに応じて一定の監査費用を毎年支払い、それが監査人のお給料に。監査人はクライアントとの良好な関係だのほかにちょっとビジネスがあればとかいう淡い期待はすべて消し去って、マル査並に厳しい対応でばりばりと監査を遂行。がんがん不適正意見を表明し、恐怖政治。金融庁の銀行検査くらいの勢いで。
これは、自由競争市場に対する多大な介入になりますが・・・上場したい企業が減ってしまって日本経済が落ち目になることも間違いない。でも、そこまでやれば粉飾って聞かなくなるのかもしれないですね。
期待ギャップというのが監査論で出てくる有名な言葉としてありまして、これは「投資家は(たとえば)財務諸表は1円の単位まで正しいと信じて(=期待)しているのだけれど、監査人は(たとえば)重要性の基準というものを用いて監査をしているので1万円まちがってて、投資家がそれに対して憤慨する(=ギャップ)というような話です。この話は、isologの磯崎さんのちょっと前のエントリー「粉飾決算とカネボウ」がわかりやすいかと思いますが、昨今の議論は、監査が実際問題があった場合、もあるし、期待ギャップの表れ、でもあると思っています。
本気で期待ギャップは解決していかないといけないですね。
検察に報告するならするで、それはまず、こういう重要な虚偽にかかわる不正は、投資家に報告すべき内容である、という形にもっていってほしいもの。そうじゃないとだれの方をみて監査しているの?という話になりますから。
ささやかに今できることからはじめる「期待ギャップ解消」として、日本でも監査報酬の開示っていうのはやってもいいと思います。
だって投資家が会社をとおして「財務諸表の信頼性」のために払っているお金ですからね。アメリカのほとんどの上場企業はSECのFilingでProxy(株主総会議事録)を公開してますが、そのなかで開示しております。
まあ、それが「こんなに払って不正を見つけられないなんてつかえない連中」となるか、「これだけしか払ってなくてこの財務諸表大丈夫なのか」のどっちに転ぶか。。。て考えたら、前者なんでしょうけれどね。とほほ。
でも、年間3千万円くらいで一部上場企業の監査報告書を出せっていうのはどう考えてもふつうじゃない、というコスト感覚は持っていただけないと、値上げ交渉の下手な日本の監査法人は本当に国有化するしか立ち行かなくなるのではないでしょうか。。。
by lat37n
| 2005-08-02 09:21
| 会計監査